シロワニの死

3月8日、火曜日の朝、仕事を始めたばかりのタイミングで動物の浜野君から電話。ワニ園から朝一の電話と言えばワニの死に決まっている。お客様が入る前に運んで分園の冷蔵庫に収容するのだ。しかしこの日は特別だ。数日前に浜野君から、シロワニの調子が悪くて、半分傾いて浮いているので、うまい説明文を書いてくれと頼まれ、画像のようなプリントを作って貼り出したばかりなのだ。案の定、電話の内容はシロワニの死を告げるものだった。次に頭をよぎることは、「エッ、300kg以上もあるシロワニをどうやって運ぶんだよ!」。と、もう運ぶ算段だ。どうもこうもない。ロープをかけて水から力づくで引き上げ、シートにくるんで運ぶのは小さいワニと同じこと。ただ池から上がるかどうかが問題なのだ。それでも10人位が揃って、たすき掛けに2個所、尻尾を1個所ロープで縛り、せーので引っ張るが、場所は狭いし、力は入らないしで、頭が出たまではよかったが、その次が進まない。フェンスに手が引っかかり、その下にドラムカンのような胴体があってびくともしない。ロープの引く位置を変えたり、尻尾を持ち上げたりして、何とか手まで外に引き出し、引っかからなくなったのを確認して全員でワニをごぼう抜きにした。シートの上に乗せた時点で長さを計るのだが、死後硬直していて首が反り返っており、計りにくいこと。それでも3.8mと言う数字が出た。皆さん、動物番組などで巨大ワニの4m、5mなんて見た事があるから大したことないと思うかもしれないが、実際はとんでもない大きさだ。体重150kgの相撲取りがタテに2人寝ているとこんなサイズだろう。池から出したはいいが、今度はダンプまで運ばなければならない。もちろん力持ちのワニ園スタッフのこと、10人寄れば300kgなど雑作もない?が、そこは頭を使って台車を使う。すると支えているだけでころころと簡単に階段下まで運べる。そしてワニ園入口の階段を2本の天秤棒係とシートの端をつかむ係に分かれて一気に持ち上げる。そしてダンプに積み、分園の冷蔵庫にひきずり込んで一安心。後になれば、写真を撮っておけば良かったなんて思うが、実際に運ぶだんになるとそんな事は頭にみじんも浮かばない。とにかくどうやって運ぶかで必死だったのだ。
 事はこれだけでは終わらない。300kgもあるワニを冷蔵庫に入れておいてどうするのということだ。当園の冷蔵庫は餌用の大型冷凍庫だから4mでも入るが、いつまでも置くわけには行かない。ただでさえもう何頭も入っているのだ。幸いワニ園には強い味方がいる。ワニの専門家、当園友の会の客員会員でもある青木良輔氏とその親友、東京大学総合研究博物館の東大夢教授こと遠藤秀紀先生だ。ここ数年、死亡したワニやレッサーパンダは全て遠藤先生に研究材料として引き取って頂き、ワニが骨格として第二の人生を歩むことになるのだ。
 死亡したシロワニはイリエワニ(Crocodylus porosus)のアルビノ個体なのだが、1972年2月17日にカンボジアから輸入されたもので、先代木村亘園長自らが出向き、シュトゥットガルト動物園と張り合って手に入れたものだと言う。以来44年、勿論私らが園に就職する前からここにいたわけで、ワニ園の顔のような存在だった。パンフレットやガイドブックは勿論、折りに触れて写真が宣伝に使われ、ワニ園で最も有名なワニだったと言ってもいいだろう。数年前の爬虫類会議のポスターにも迫力満点の画像が使われている。
 実は遠藤先生との間では、他のワニの死体引き取りの話が現在進行形で進んでいたので、シロワニもそれに便乗して引き取ってもらうことになった。貴重なしかもワニ園のアイドル的存在でもあったシロワニを研究材料として、解剖や骨格の権威遠藤先生に引き取ってもらうことは、シロワニにとっても最後の花道となることで、こんな有り難いことはない。また遠藤先生からも「こちらこそ、感謝の極みです。大切なものを授けて下さり、ありがとうございます。」との言葉をいただいている。こういう形で研究のお役に立てるならシロワニも本望だろう。
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